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  • Vol.25

性的マイノリティに対する企業の人権保障

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1. はじめに

性的マイノリティの差別禁止法制定の機運が高まる中、企業においても、特に雇用の場面において、性的マイノリティに対する人権保障が求められています。
そこで企業における性的マイノリティへの対応について、いかなるケースで人権侵害となるのか、あるいは積極的な人権保障としてどのようなものが望まれるのかを検討します。

2. 人権侵害となりうるケース

(1)性的マイノリティであることを理由とする不採用、内定取消し、採用後の解雇、配置転換は、いずれも社会通念上の相当性を欠くものであり、不当な差別に該当し(憲法14条違反)、人格的生存の侵害となります(憲法13条違反)。
(2)性的マイノリティであることを理由とするいじめ・嫌がらせ(ハラスメント行為)や、本人の望まない暴露行為(いわゆるアウティング)も、人格的生存に対する侵害に該当することは言うまでもありません。
(3)(1)(2)に加え、例えばトランスジェンダーの社員(身体的性別と心の性が不一致な者)に対して、心の性に合った服装や化粧をすることを認めず、これをした場合に服務規程違反として取り扱うことも、人格的生存の侵害に該当します。
(4)トランスジェンダーの社員に対して、心の性に対応したトイレの利用を制限したことが違法と認定された事例があるので(東京地裁令和元年12月12日判決、東京高裁令和3年5月27日判決)、企業としては、注意を要します。トランスジェンダーの社員のトイレ利用については、他の従業員の心理的抵抗にも配慮する必要が生じる場合もあります。しかし、このような抽象的理由のみでトランスジェンダーの社員のトイレ利用を安易に制限すると、人権侵害に該当するリスクが生じます。

このようなリスクが生じないようにするためには、どんな性別の者でも使える「オールジェンダートイレ」を設置するなど、企業側が工夫する必要も生じると思われます。

3. より積極的な人権保障として

対応を行わない、あるいは拒否することが人権侵害につながるわけではありませんが、性的マイノリティに対する人権保障をより手厚くするため、導入が望まれる制度や取り扱いが、主に福利厚生の場面で考えられます。

国の社会保障制度においては、遺族年金等の給付はいわゆる同性婚者に対しては認められていません。したがって、企業においても、同性婚者の一方が死亡した際に、弔慰金や見舞金を給付しなくても、これが違法ないし人権侵害となることはありません。とはいえ、多くの自治体において、同性婚カップルに対して異性婚者と同様の法的サービスが提供されている昨今においては、企業においても、同様の取り扱いをすることが、人権保障上望ましいともいえます。

そこで、前述のようなケースにおいて弔慰金や見舞金を給付することを、企業側で検討しても良いかもしれません。さらに、同性婚者に対する介護休暇の付与や社宅の供与等も、より積極的な人権保障の点から検討する価値があるでしょう。

4. おわりに

企業において性的マイノリティに対する人権侵害をなくし、より積極的な人権保障を行うことには、相応のコストが必要となります。しかし人権侵害を放置することは企業イメージ低下のリスクがある一方で、手厚い人権保障を行うことには、より優秀な人材を確保しうるメリットがあります。企業イメージも良くなるでしょう。
性的マイノリティに対する人権保障が、単に義務的なものではないことを企業が自覚すべき必要性は大きいと思われます。

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