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  • Vol.24

「ビジネスと人権」について

概観と性的マイノリティ対応

関連法人:NTS総合弁護士法人

1. はじめに

2022年11月30日、東京地裁から、同性同士の婚姻を認める法制度がないことは「違憲状態」にある、と判断した判決が出され、社会的な注目を浴びています。日本国憲法は、基本的人権の尊重を基本原理としており、国家機関は、国民の人権を尊重する法的義務を負っています。もっとも、人権を尊重しなければならないのは国家機関に限られるものではなく、民間企業においても、人権尊重の取り組みが求められるようになってきています。そこで今回は、「ビジネスと人権」について概括的に紹介したうえ、特に性的マイノリティの方への差別防止について説明します。

2. 「ビジネスと人権」概観

(1)企業活動と人権

第2次世界大戦後、1948年に開催された第3回国際連合総会にて「世界人権宣言」が採択され、各種の人権条約が採択されました。1990年代に入り、産業構造の発展に伴って、多くの企業が国際的に事業を展開していく中、そのサプライチェーンにおいて人権侵害を起こした事例が注目されました。

アメリカに本社を置く大手スポーツ用品メーカーが、海外に工場を設立して製品を生産していたところ、東南アジア地域の工場において児童労働や劣悪な労働条件といった問題を抱えていることが発覚したのです。

この事件をきっかけに、企業の事業活動においても人権を尊重することが求められるようになり、2011年には国際連合人権委員会が「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます)を承認しました。

(2)指導原則

指導原則は31の原則から構成されており、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「人権侵害に対する救済へのアクセス」の3つの柱に分類できます。たとえば、第11原則では「企業は人権を尊重すべきである。それは、企業が他者への人権侵害を回避し、企業が関与した人権への悪影響に対処すべきことを意味する」と定めています。

この指導原則に法的拘束力はありませんが、欧米諸国では、指導原則が定める人権リスクの回避・軽減のための制度を、法律によって定める国も増えてきました。日本においても、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「人権尊重ガイドライン」といいます)が策定・公表され、人権尊重に取り組もうとする企業にとっての有益な指針となることが期待されています。

(3)人権尊重ガイドライン

人権尊重ガイドラインにおいて定められている事項は、「人権方針の策定」「人権デューデリジェンス(企業状況の調査)」「人権への負の影響にかかる救済」に分類することができます。

まず、人権方針の策定として、企業は、経営トップが承認した方針を企業の内外に表明することが求められます。次に、人権デューデリジェンスとして、
①自社・サプライヤー等における人権への負の影響の特定・評価
②負の影響の防止・軽減
③取組みの実効性の評価
④対処方法の明示・情報開示
といった継続的プロセスを実行し、適宜その内容を修正・発展させていくことが求められます。さらに、自社が人権への負の影響を惹起または助長している場合、負の影響の防止・軽減にとどまらず、被害者に対する救済の実施または救済の実施への協力が求められます。

このように「ビジネスと人権」問題において企業に求められる役割は広範にわたりますが、今後もその重要性は高まっていくものと予測されます。

3. 性的マイノリティの方への差別防止

「ビジネスと人権」が問題となるのは、サプライチェーン上だけに留まりません。性的マイノリティの方に対する差別的な扱いも、人権への負の影響として問題になります。

企業の皆さまにおかれては、セクシャルハラスメント対策の一環として、性的マイノリティの方も働きやすい職場となるよう、既に取り組まれていることかと存じます。もっとも、企業活動における性的マイノリティの方々への差別防止の観点からは、企業内部だけではなく、外部にも目を向ける必要があります。

たとえば、不動産の賃貸物件の仲介を行う企業が、入居希望者が性的マイノリティだからという理由で入居拒否した場合、不合理な差別であるとの批判を免れないでしょう。

企業が具体的にどのような行動をとるべきかについては、一般社団法人日本経済団体連合会が「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」と題する文書を公表しており、さまざまな取組みが紹介されていますので、参考になるのではないかと思います。

4. まとめ

企業において、「ビジネスと人権」が問題となる場面は、多岐にわたります。特に人権担当者や担当部署を設置して、専門的な対応を行っている企業もおられるかと思いますが、それだけでなく、従業員一人ひとりが人権に対する意識を高め、企業活動全般において、人権を尊重する取り組みを拡大していくことが重要です。

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