- 法律
- Vol.16
契約書の押印について
今般の新型コロナウイルス禍では、多くの企業がテレワークを導入しましたが、社内の文書や他社との契約書への押印が予定どおりに得られず、困られた方もいるのではないでしょうか。政府も、行政手続における押印の廃止を進めています。今回は、この「押印」についてご説明いたします。
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1. 書類に対する押印の意味
契約の成立に関する民法の原則的な考え方は、「法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」というもので、今般の債権法改正によって明文化(民法522条2項)されました。すなわち、押印がないからといって契約が無効になるわけではなく、契約書を作成することも必要とはされていません。
とはいえ、企業間の契約では、合意の内容を明確にして、万一紛争になった際の証拠とできるように、契約書を作成することが一般的です。民事訴訟法の分野では、「二段の推定」という考え方があり、①作成名義人の印章(印鑑)による印影があれば、その印影は作成名義人の意思に基づき押印されたことが推定され(一段目の推定)、②名義人の押印があるときは、文書の成立の真正が推定されます(二段目の推定、民事訴訟法228条4項)。推定の詳しい根拠は省略させていただきますが、契約書に押印がされることに意味がないわけではなく、むしろ、重要な意味を持っているといえます。
押印の代替手段として電子署名というものがあり、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)によって、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書等は、真正に成立したもの(本人の意思に基づき作成されたもの)と推定されます。
2. 押印の慣行とその将来
法律の条文で、押印が必要とされている書類もあります。たとえば民法によると、自筆証書遺言は「これに印を押さなければならない」(民法968条1項)、つまり押印があることが法律上の要件とされています。ただし、白系ロシア人が作成した「押印を欠く自筆証書遺言」を有効とした最高裁の判例があります。この判決は、遺言者が、押印の慣行のない社会で生活してきたという特段の事情を考慮した、極めて例外的な判断とされています。
現在の日本は、押印の慣行のある社会であることは間違いなく、押印が必須となる書面も残っています。けれども、電子契約等の普及により、契約書への押印が求められる場面は、今後は減っていくものと予想されます。今般のコロナウイルス禍は、その流れをいっそう加速させたといえるのではないでしょうか。
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