- 登記
- Vol.8
成年後見制度と任意後見制度
成年被後見人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた者」をいいます(民法第7条)。この審判を受けた場合、成年後見人が付されます。成年後見制度のうち法定されている制度は、「後見」以外にも「保佐」、「補助」の3類型がありますが、その中でも後見は最も本人の判断能力の低下が大きい場合に付されるものです。
後見は“精神上の障害”による場合(例えば認知症など)に付されるもので、身体障害など、精神面で問題のない方に後見人をつけることはできません。
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1. 成年後見人の業務
成年後見人の具体的な業務は、「財産管理」と「身上監護」があります。
財産管理は、成年被後見人が所有する預貯金や不動産を管理することです。税金の納付なども代わって行うので、収入・支出を管理することになります。定期的に財産の状況を家庭裁判所に報告することが求められています。
身上監護とは、介護のような事実行為ではなく、医療に関する契約、施設等への入居契約、介護サービス契約など、被後見人のために契約を締結するものです。
2. 成年被後見人の相続・不動産売買の取り扱い
成年被後見人が特に問題となるのは、相続における遺産分割や、不動産の売買です。
民法の法定相続分と異なる相続分で遺産を分ける相続が発生した場合、遺言等がなければ、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。その相続人の中に例えば認知症の方がいる場合、その症状の程度にもよりますが、そもそも意思能力を欠くような重度の症状ならばその行為は無効となりますし、後見相当ならば後見申し立てをしたうえで、後見人が代わって遺産分割協議に参加することになります。後見申し立てから成年後見人が選任されるまでは時間がかかるので、遺産分割が難航することになります。
また、成年被後見人が不動産を所有している場合、その不動産の売却も成年後見人が代理して行うこととなります。ただ、この不動産が居住の用に供するための建物又はその敷地である場合(居住用不動産)には、売却等の処分をするためには、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法第859条の3)。
3. 任意後見制度
法定された成年後見制度の他に、「任意後見制度」というものもあります。簡単に説明すれば、法定された後見制度は精神上の障害を発症してしまった後に裁判所を通して後見人をつける制度であるのに対し、任意後見制度は現在元気な方が、将来精神上の障害が発症する場合に備えてあらかじめ自分の後見人になる者を選任しておく契約のことを言います。任意後見制度は本人の意思を尊重して、任意後見契約の内容に従い、家庭裁判所を介することなく選任手続が行われます。家庭裁判所の関与は、後見監督人をつけて後見人の業務を監視するという間接的なものにとどまります。
今後は任意後見制度を利用される方が増えていくと思われますので、以下で法定された成年後見制度と任意後見制度を比較しておきます。
法定された成年後見制度と任意後見制度の違い
法定された成年後見制度 | 任意後見制度 | |
---|---|---|
行う時期 | 判断能力がなくなった後 | 元気なうちにする |
手続 | 家庭裁判所への申し立て | 公証役場で任意後見契約 |
後見人の選任 | 家庭裁判所が決める | 契約で定める |
後見人の権限 | ほとんどすべての代理権 | 契約で定める |
後見人の報酬 | 家庭裁判所が決める | 契約で定める |
費用 | 低額(印紙代程度) | 比較的かかる(公証人等) |
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