• 労務
  • Vol.3

固定残業代について

平成29年7月7日、残業代込み定額年俸の有効性が争われた裁判で、最高裁は「残業代と基本給を区別できない場合は残業代が支払われたとは言えない」として無効と判断しました。

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1. 事件概要と示された判断

この事件は、医師が勤務先の病院に対し、解雇の無効と未払残業代等の支払いを求めた裁判です。病院は時間外労働に対する割増賃金については、雇用契約にて年俸に含むものとして医師と合意していました。これについて、最高裁は右表のように考え方を示しました。

① 適法

基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより固定残業代という方法自体が直ちに労働基準法に反するものではない

② 超過分の支払い

固定残業代制度が適正であるためには、固定残業代相当額を超過した労働時間分はキチンと別途支払が必要

③ 明確に分別

通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代とを判別できることが必要

本件では割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたものの、実際の残業代金額を確定できず、割増賃金に当たる部分を判別することはできないことから、割増賃金が支払われたということはできないとの判断が示されました。

2. 最高裁判決の意義

残業代“込み”の給与支払いについては過去複数の判例で、“給与の中で基本給と残業代とを区別出来ること”との要件が示されてきました。

しかし、今回の事件は医師の年俸が高額(1,700万円)であったこともあり、高裁判決では、「本件合意は医師としての業務の特質に照らして合理性があり、労務の提供について自らの裁量で律することができたことや給与額が相当高額であったこと等からも、労働者としての保護に欠けるおそれはない」と判断されていました。

これに対して最高裁は、割増賃金の未払い分の存在を認めました。
今回の判決で示されたことは、残業代の支払いについて最高裁は非常に厳格で、例え高額の年俸が支払われていたとしても労働基準法のルールは免れられないということです。

3. 結論

近年は固定残業代を導入する企業が多いですが、残業代を基本給などに含める制度等を取り入れたとしても、企業は従業員の残業時間を明確に把握して、残業代が実際の労働時間に対応して支払われているかを確認することが重要で安易に固定的残業代を導入するべきではないといえます。

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